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放射線のDNAへの影響(1)

最近のニュースを見ていると福島県の放射線レベルは年間20mSv(ミリシーベルト)までは大丈夫だとか、いや1mSv以下に制限すべきだ、など色々な人々が色々なことを発言している。

高線量、たとえば、4シーベルトの放射線を全身に浴びると60日以内に50%の人が死亡する。一方、低線量の放射線による人体への影響は現在でも不確定なことが多い。医療用薬品の人体への影響の影響を調べる場合には、臨床試験として実際に人間(被験者)に薬を投与しその影響を科学的に調べることができる。しかし、放射線の場合、その影響を調べるために人体実験することは、当然ながら許されない。その代わりに、広島・長崎に投下された原爆、原爆実験、チェルノブイリ原発事故による放射線を浴びた人々に対し、その後どのような影響があったのか、事後的に調べることがこれまで行われてきた。
特に、放射性物質からの放射線被曝による人体への影響として、発ガン率の上昇と遺伝的な影響がよく調べられている。

本記事では、放射線のDNAへの影響(DNAの突然変異)に関する論文を紹介する。

DNAは塩基のペアが一列に並んだ分子である。放射線がなくてもDNAには自然に突然変異が起こる。したがって、放射線の影響を調べるには、突然変異率の「変化」を調べる必要がある。突然変異率が上昇すれば影響があった考えられ、変化がなければ影響がなかったと考えられる。

遺伝子(人体の設計図)の突然変異率は非常に低い。そのため、突然変異率の変化を正確に求めるには、膨大な数の人々を調べる必要がある。一方、ミニサテライトと言われるDNA領域の突然変異率は、遺伝子よりオーダーが数桁高いため、より少ない人々を調べれば変異率の変化を計算できる。ちなみに、ミニサテライトは遺伝子ではないので、この箇所に突然変異があったとしても人体に影響があるとは、(今のところ)考えられていない。しかし、放射線によってミニサテライトが突然変異するということは、遺伝子にも影響がある可能性があることを示唆している。

放射線のDNAへの影響に関する研究論文はいくつか発表されているが、影響の有無に関する結果はまちまちである。
これらの論文をすべてレビューすることはできないので、ここでは、チェルノブイリ原発事故(1986年)で放出された放射性物質による被爆が、ミニサテライトに与えた影響を調査した論文(2編)を紹介する。最初の論文では突然変異率が統計学的に明らかに上昇したことを示している。一方、後者の論文では、突然変異率が上昇傾向にあるものの、統計学的には明確ではなかった。

両論文ともチェルノブイリ原発事故によって突然変異率が変化したかどうかを調査している。ミニサテライトの変異率の変化を調べるには、事故前後のDNAが必要であるが、当然ながら事故前のDNAは保存されていない。そこで、論文では変異率の変化を次のように求めている。
子供は両親のDNAのコピーを受け継いでいるので、事故前に生まれた子供のDNAと、事故後に生まれた子供のDNAを比較すれば、両親のDNAの突然変異率を調べることができる。
ところで、子供は精子と卵子のDNAを受け継いでおり、それ以外の体を構成する細胞のDNAを直接受け継いでいるのではない。普通は生殖細部と体細胞のDNAは同じである。もし、放射線により事故前後の子供のDNAが異なったのであれば、生殖細胞のDNAが変化したということを示唆している。体細胞のDNAにも影響があったかどうかはこれだけでは不明である。事故前の体細胞が保存してあれば別だが。


本記事では、事故前の両親のことを「対照群」、事故後の両親のことを「被爆群」と呼ぶことにする。同じ両親を事故前後で別の呼び方をしていること注意されたい。


論文1では、チェルノブイリ原発事故により放出された高濃度の放射性物質で汚染されたウクライナの住民の変異率を調査している。その結果、被爆男性のミニサテライトの変異率は、被爆していない男性の1.6倍高いことがわかった。統計的にも有意(統計学的にほぼ確信できるという意味)。

論文2では、チェルノブイリ原発事故後に事故現場の後始末のためにエストニアから派遣された作業員のミニサテライトの変異率を調査している。その結果、被爆男性のミニサテライトの変異率は、被爆していない男性の1.3倍高いことがわかった。特に、200mSv以上被爆した作業員では、変異率が3倍に達していることがわかった。ただし、ともに統計的には有意ではなかった。


それでは、各論文の結果について詳しく紹介する。




■論文1:「チェルノブイリ事故後の、ウクライナ人家族におけるミニサテライト突然変異率の上昇について」

調査対象は、ウクライナのキエフおよびジトミール在住の256家族。生殖細胞系列のミニサテライトプローブ(合計8種類)の変異率を調査。

下図は、男性(父親)および女性(母親)の生殖細胞系列における、原発事故前後のミニサテライトの変異率を示したグラフである。
横軸は8種類のミニサテライトとその集計値、縦軸は突然変異率である。集計値に注目すると、男性の場合、被爆群(事故後)の突然変異率は、対照群の約1.6倍高いことがわかる(統計的に有意)。一方、女性(母親)の場合は、被爆前後で変異率に変化がないことがわかる。


チェルノブイリ原発事故によるミニサテライトの突然変異率[男性住民]



チェルノブイリ原発事故によるミニサテライトの突然変異率[女性住民]


下図は、男性(父親)のミニサテライトの突然変異率と、子供を妊娠した年との関係を示したグラフである。チェルノブイリ原発事故が発生した1986年より前に受精した場合が対照群、後に受精した場合が被爆群である。
この図からも明らかに、被爆群では全般的にミニサテライトの変異率が高くなっている。注目すべき点として、対照群・被爆群ともに受精年にかかわらず突然変異率が安定している(上昇傾向または減少傾向ではない)ことであることである。


チェルノブイリ原発事故によるミニサテライトの突然変異率(受精年別)


原発に重大な事故が発生すると、破壊された原子炉から様々な放射性物質が放出される。その中には半減期の短い放射性物質も多く、時間が経ってしまうとそれらによる被爆線量を測定できないため、被爆線量の推定が必要になる。
チェルノブイリ原発事故後の推定被爆量は、ベラルーシの住民で、0.2~0.4Gy(=グレイ、シーベルトとほぼ同一)、ウクライナやベラルーシの30km圏の避難区域では事故後数日間にそれぞれ0.3Gy、0.4Gy、である。これらの値は実際の測定値よりかなり高いため、半減期の短い放射性物質による体内および体外被爆量を反映していると思われる。

もし、半減期の長いセシウム137が突然変異率の上昇を引き起こしたのであれば、事故後の1986年から1994年までの突然変異率(上図)は上昇するはずである。しかし、事故後の変異率はほぼ安定してるため、原発事故直後の半減期の短い放射性物質からの高レベルの放射線で被爆したことが、ミニサテライトの突然変異を引き起こしたと考えられる。


ところで、精子は次のように作られる。まず精祖細胞と呼ばれる精子の元になる幹細胞がまず2つに分裂し、そのうちの一方のみが減数分裂を経て精子になる。この精子形成期間は約70日である。一方、(母親の)卵子は、卵母細胞から減数分裂の段階までを(母親の)出生前(すなわち、お腹の中にいる間)に既に終了している。

そこで最初の2枚のグラフを見ると、父親の(精子の)DNAではミニサテライトで突然変異が起こっているが、母親の(卵子の)DNAは突然変異していない。

父親の精子で突然変異が上昇した理由は以下のとおりである。
おそらく、精祖細胞のDNA上の(ミニサテライト以外の)どこかに、高レベル放射線被爆により引き起こされた障害が蓄積した結果、ミニサテライトの安定性に影響を与え、減数分裂の際にミニサテライトの突然変異が発生したと考えられる。一方、卵子は、生まれる前に既に減数分裂まで終了しているため、母親が被爆しても突然変異が起こらなかったと考えられる。




■論文2:「エストニア人チェルノブイリ事故現場作業員の子供のミニサテライト突然変異について」


チェルノブイリ事故現場作業員の生殖細胞系にあるミニサテライトの突然変異率を調査した。各作業員の子供、すなわち、事故現場で働く前に生まれた子供(148人)と、事故現場から戻った後に生まれた子供(155人)、から採取したDNAを比較することにより突然変異率を推定した。

その結果を下図にまとめた。調査対象のミニサテライトは論文1と同じ。集計値に注目すると、被爆群の突然変異率は対照群の1.3倍であることがわかる。

チェルノブイリ原発事故によるミニサテライトの突然変異率[男性作業員]


各作業員が現場作業中に受けた被曝線量のデータをもとに、被曝線量ごとの突然変異率を調べた結果を下図に示す。被曝線量が多くなるにしたがって、突然変異率が高くなることわかる(ただし統計的には有意ではない)。例えば、被曝線量が200~300mSvの場合、作業前に比べてミニサテライトの突然変異率が3倍に上昇している。

チェルノブイリ原発事故作業員ミニサテライト突然変異率オッズ比





参考文献:
-論文1:Dubrova YE et al, Elevated minisatellite mutation rate in the post-chernobyl families from Ukraine, Am J Hum Genet., 71 (4), 801-9, 2002.
-論文2:Kiuru A et al, Hereditary minisatellite mutations among the offspring of Estonian Chernobyl cleanup workers, Radiat Res., 159 (5), 651-5, 2003.

参考サイト:
被爆者の子供のDNA調査(1985年-現在)
原発事故に関連する放射線被ばく者及びその子孫の不妊化と遺伝疾患まとめ
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テーマ : 健康
ジャンル : ヘルス・ダイエット

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